連載:屋上の話

屋上ができるまで きっかけ編

『屋上』ができるまで

(小売店、飲食店、ギャラリー、オフィス、アトリエ、イベントスペースなんかの)場所をつくる。言葉では簡単に言えるけど、実際にやることを考えると結構難しいような気がしてしまう。

土地や建物、設備や工事には結構な額のお金がかかるんじゃないか? 維持するのにも家賃とかいろいろランニングコストがかかりそう。実際はじめられたとして、思ったような成果を得て続けていくことができるのか?(人が来てくれるのか、売上が立つのか)みたいなことを考えはじめると、少なくともパッと思いついてすぐに実現できるようなことではないような気がする。

でも現在、東京の西日暮里の駅からちょっと離れた場所に「屋上」というお店(飲食店なのかイベントスペースなのか、何と紹介していいのか運営している側も未だによくわかっていない)を作って、1年ぐらい運営することができている。

わたしたちは元からそれなりの額の資本金を持っていたわけではないし、強いコネもないし、うまくいく根拠になる後ろ盾を持っていたわけでは全然なかったものの、色々工夫しながらやってみたらなんとかなった。

これには運や偶然の要素もおそらく結構あるし、これから先うまくいくかなんてわからないし、これからもこのやり方で続けていけるのかどうかは全くわからないけれど、ひとまず場所を持って運営するというところまではいくことができた。

契約当初の屋上

だからそのやり方、そこに至るまでに考えたこと、試したこと、使った道具、その他いろいろなことを、一旦ここに書き残しておこうと思う。

自分たち以外の「場所を作りたい」と考えている人の参考になるかもしれないし、屋上という場所がどんな場所なのかを知るきっかけになってくれたら嬉しい。

最初のきっかけ

屋上で店番をしていると、来た人に「屋上ってなんなんですか?」「なんではじめたんですか?」とよく聴かれる。バーなのかスナックなのかイベントスペースなのかはっきりしておらず、ウェブサイトにもふわっとしたことしか書いていないので聴きたくなるのは当然のことだと思う。しかし自分たちでも、それを一言で説明するのは結構難しく、なぜなら屋上をはじめようと思った理由が複数あるからだ。

ざっくり挙げると、屋上をはじめる前に住んでいたシェアハウスでホームパーティーを開いて人を呼ぶのが楽しかったこと、それまで周囲の人と一緒にやっていたいろいろな活動をひとつのチームとして統合したくて、その中心となるオフィス的な場所が欲しかったこと、普通にお店をやりたいという気持ちがあったことなどがある。

シェアハウスで考えたこと

引っ越して一ヶ月くらいの様子、とりあえず棚と椅子を作って、奥には木材が積み上がっている。

一年くらい経って生活感出てきた頃

屋上をはじめようと最初に言い出した3人は、もともと3人で同じシェアハウスに住んでいた。(今ではその3人だけじゃないメンバーも屋上に加わってくれて、7人ぐらいで活動している。)かなりボロくて夏は異常に暑く冬は異常に寒い一軒家だったけど、リビングが広くて人をたくさん呼べたので、定期的にホームパーティーを開いていた。

「亀青飯店」という名前でホームパーティーを開いていた

自宅でなるべくサイゼリヤを再現するという会

ホームパーティーといっても友達に声をかけて来てもらうだけではなく、わざわざイベントとして面白いものを考え、Twitterなどで告知をして、友達の友達や、友達の友達の友達ぐらいのひとでも来てもらいやすいものを企画していた。

年末年始にはシェアハウスの近所の川で凧揚げをしたりした

さすがに会場が住居なので全くどこの誰かも知らない人を呼ぶことはできないけど、全然違う方面で繋がっていた人同士にその場で繋がりが生まれたりすることが結構あって、それは見ていてとても面白かったし、何より色々な人がその場所を気に入って親しみを持ってくれたりするのがとても嬉しかった。

「屋上」という名前をつけた理由

「屋上」という名前の由来のひとつも、そのシェアハウスにあった。

わたしたちが暮らしていたシェアハウスには屋上があった。特に広いわけではないし、景色もそんなに良くなかった。ベランダに毛が生えたぐらいの場所ではあったけど、その場所のことがとても好きだった。

気持ち良い天気の日にはご飯を作って屋上に持ち出して食べることもできたし、仕事や作業に行き詰まったときは屋上にノートPCを持ち出してそこで進めたりしていた。家の中で使う家具も、ホームセンター買ってきた木材を屋上に持ち出して、そこで切ったりくっつけたりして作った。

ふと思いついたときにすぐに行けて、そこで大体なんでも自由に過ごすことができる。家に付属しているのに家の外にあって、内と外のちょうど中間ぐらいの、とてもバランスのよい場所に思えた。そんな感じの場所になったら良いなと思って、お店の名前と、そこを中心にいろいろやっていくチームの名前を「屋上」とすることにした。

チームとしての「屋上」

屋上をはじめる前から、いま屋上を一緒にやっているメンバーとは色々な活動をしていた。

美術雑誌『踊り場』Vol.3

アーカイヴィング・コレクティブ「魔法瓶」として制作したCD

それぞれ完全にメンバーがかぶっているわけではないが、大学在学中の頃から『踊り場』という美術雑誌を一緒に作っていたり、『冷凍都市でも死なない』というウェブメディアを一緒に運営していたり、映像や写真なんかの撮影業務を請け負っていたりなど。

個々のことについて詳しく書くととても長くなるので割愛するが、そういった活動をすべて担えるひとつのチーム、ひとつのプラットフォームがあったら便利だなという気持ちと、それを集まって進めるための場所が必要だと感じていたことも、メディアと場所を作るチーム「屋上」をはじめる理由のひとつとして大きかった。

今ではお店の運営と同時並行して、映像や写真の撮影、出版物の制作などの活動も行っている。

どんな場所にしたいか?

このような理由で場所を作りたいという気持ちが高まるわけだが、実際の行動に移すにはまだまだやるべきことがたくさんあった。

自分たちは場所を持って運営していくことについては全くの素人なので、既にそれをやっている人たちに話を聞きたい。実際に場所を持つ前に、レンタルスペースなんかでおためしで運営してみたい。何より、どんな場所にしたいのか?どういう場所を目指すのか? ということを決めないことには何も進めることができないので、それを考えたい。

浅草Buttobiでのおためし営業

わたしたちは住んでいたシェアハウスを解散したあと、周囲にいる場所を持って運営している人に話を聴いたり、浅草Buttobiというスペースを借りてお試し営業をしたり、物件を探したり、食品衛生責任者の資格をとったり、ときおりサイゼリヤなんかに集まって、これから作っていく場所をどんな場所にしていくべきなのか?ということを色々と話し合った。

(その過程の詳細は今後の記事で書いていこうと思う。)

開かれた場所

住んでいたシェアハウスでホームパーティーを開いていたとき、元々自分の知り合いではなかった人(友達の友達とか、友達の友達の友達とか)が来てくれて、そういった人たちに遭遇できるのが結構楽しかった。知っている人しか来ない催しよりも、開かれていて誰でも出入りできる開かれた場のほうが、色々な可能性を持っている。

元々自分たちはみんな人見知りで、誰とでも仲良くなれるようなタイプでは決してない。でもそもそも、来てくれた人と必ずしも仲良くなる必要なんてないのが、開かれた場所の良さでもあると思う。いろいろな人が来て、各々が各々のやり方で、その場所で時間を過ごす。そのことに意味があるのであって、その中で仲良くなれるかどうかは結構どうでも良いことなのかもしれない。

だから、その場所を中心になにかひとつのコミュニティを作りたいみたいな気持ちも全くなかった。もっと曖昧で、輪郭が薄くて、掴みどころのないような関係性が、場所の中に立ち現れたら良いなと思っている。

「お店」にしたい

ある程度開かれた場所を作るには、そこを「お店」にするのが一番の近道だと思った。自分は家やオフィスに「遊びにおいでよ」と言われることがあっても、なんとなく遠慮してしまうことが多い。なんとなく相手に迷惑をかけてしまう気がするし、気を使ってお茶を出されたりすると申し訳ない気分になることもある。

でもお店であれば、お金を介して客とお店が対等な存在になることができる。「お茶ください」といってお金を払った以上、店側がお茶を出すのは当然だし、客側もお茶を出されて当然という態度でお茶を受け取ることができる。 だからオルタナティブスペースとかオフィスとかアトリエみたいな場所ではなく、「お店」として屋上を作ろうと思った。

程よく気の抜けた場所にしたい

お店(飲食店)をやりたいと思いつつ、カッチリしたバーみたいな場所に行くことが好きなわけでは全然なかった。カッチリしたお店でしか体験できないことはたくさんあるし、素晴らしいお店がたくさんあることも知っている。でも、単純にそこに行くと緊張してしまう。心地よい緊張感のあるお店の良さというものもあるのだとはおもうが、自分たちがつくるお店は、もっと砕けていて、気を抜いていられるような場所にしたかった。

オープンして間もない屋上 奥のほうに収納場所に困ったものが積まれている

そのために、お店を「ずっと途中」の状態にしておくことに意味があるのではないかと考えた。まだちょっと未完成な状態でお店を開けて、人を呼びながら、徐々に場所を良くしていく。完成していない場所なので、あちこちに隙がある。棚を作るのに使う端材が転がってたり、収納しきれなかった荷物が見えていたり。そういう部分を残しておくことで、カチッとしたお店と、全力でリラックスできる家みたいな場所の中間を探っていくことができるのかもしれない。そういうことを考えながら、あそこに棚があったらいいなとか、椅子を増やしたいとか思いつきで施工しているので屋上の内装はだいたいいつでも中途半端だし、ちょっとゴチャゴチャしている。

自分もやりたいとか、やってみたいとかできるんじゃないか思える場所

私たちの中に建築やデザインを専攻していた人は誰もいない。
お店の内装のためのDIY技術や、今こうやってウェブ記事をつくったりする技術は、とにかくググりまくって試しまくって失敗しまくっての結果だ。

もちろんその道のプロに比べたらいろんなところでクオリティの差が出てしまうかもしれないけど『何かの仕組みを知って、それを自分で活用できる/実現できる』って、そのこと自体が純粋にめちゃくちゃ楽しいことだと思うし、手を動かしているときは少し自分のことが好きになれる気もする。

屋上という場所は、自分たちにとって、「何かやりたいと思ったらそれをすぐに実現する」ための場所であると同時に、その場所に来た人が、「なんか自分もやれるかも」と思えるきっかけや、やれるかもと思ったことを実際に実現できる機会を提供する場になって欲しかった。

一年やってみて

屋上のカウンターに立っていると、来てくれている人ひとりひとりの中にそれぞれ違う屋上のイメージが立ち上がっているなと思うし、それはとても良いことのような気がしている。

屋上のことをバーだと思っている人がいたり、展示スペースだと思っている人がいたりする。珈琲屋だと思っている人がいても、友達と会える場所だと思っている人がいても何でもいい。私たち自身も屋上が何なのかはわかっていないので、屋上の「正しい姿」を把握している人は誰もいない。

でも屋上に来てくれた人たちは、屋上という場所にいて、同じ時間を過ごしている。それだけは確かだ。そして、究極的にはそれだけでいいんじゃないかと思ったりもする。

お店は公共空間であると同時に、少しだけ他人の私的な空間に接している。隣の席の人の会話が耳に入ってくることもあるかもしれないし、注文しているものが気になるかもしれない。とにかくそこに自分以外の人がいる、ということを感じる機会が多い。

わたしたちはどちらかというと人見知りだし、お店をやるなんてあんまり向いてないことのようにも思う。

それでも、お店にいて、誰かが来てくれて、そこで時間を過ごしてくれているのをみると、全然知らない人でも、その人と会話をしなかったとしてもちょっと嬉しい気持ちになる。

もちろん、初めて出会った人と、美味しい食べ物とかお酒を介して話が盛り上がったりすることもとても楽しいし、企画やイベントに来てくれる人が何か特別な気持ちを受け取ってくれることも嬉しいし、お客さん同士が知らぬ間に仲良くなっているのもとても嬉しい。料理やドリンクを美味しいと言ってもらえるのも嬉しい。

屋上でやってみたいことを提案してくれて、カニをすりつぶして汁を作る企画から短歌や写真の展示、ボードゲーム大会まで、いわゆるギャラリーみたいなところではやりきれないような幅の企画をやれているのも、毎日わくわくする。

でもそれはあくまで結果論であって、一年続けてみて、やっぱりわたしたちのやっていることは『ただいるだけでいいところ』を作る、というところに着地するんじゃないかなと感じている。

この後、この場所がどう変わっていくかはわからない。
今のわたしたちだけで運営していても面白くないので、もっと多くの人を内側にも外側にも巻き込んで色々なことをやっていきたいし、店内の造作もまだまだ作り変えていきたい。もしかしたらもう一年後には、今とは全然違う場所になっているのかもしれない。

でも、ここがわたしたちにとって大切な場所であるように、誰かにとっても『ちょっと気になる場所』であり、『少し特別な場所』であり続けることができればいいなと思っている

写真一部:富澤大輔

この記事を書いた人

野口、郷田いろは

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