理性的な判断を一歩一歩しながら、何十年も経た時に、気づいたらやばいところにいる

松澤茂信さんインタビュー

話を聞いた人

◎松澤茂信さん

 観光会社「別視点」代表で「東京別視点ガイド」編集長

観光会社「別視点」とは?
各ジャンルのスペシャリストがガイドをする『観光ツアー業』(「東京別視点ツアー」)、 日本中・世界中の珍スポットを紹介する『webメディア運営』(「東京別視点ガイド」「世界別視点ガイド」)を行う。

「東京別視点ガイド」とは?
東京を中心として、「ぴあ」や「東京ウォーカー」では紹介されることのない珍スポットや珍イベントを紹介するウェブサイト。
http://www.another-tokyo.com/

どっちのめんどくさいを選ぶかなって考えた

– 卒業した後、ライターとして活動するようになった経緯を教えていただけますか?

 就活をして内定までもらったんですが、なんか面倒くさくなっちゃって。もともと、会社は2、3年勤めたら辞めて、自営業をするつもりだったので、その過程を飛ばすことにしました。大学を出てからは、友達3人と高円寺でカフェをやってて。それに加えて、派遣社員として、金融機関のコールセンターみたいなところで働いてましたね。高円寺のカフェは、週末イベントを必ずやってそれで集客するみたいにしてて。だから、ちっちゃなロフトプラスワンみたいなニュアンスだったんですけど、3人のやりたいことが違いすぎて、3年やってそこは抜けました。それから、東京別視点ガイドをやり始めて、2年ちょっとくらいして食べられるようになってきたので、派遣社員も辞めて、ライターとして一本でやっていくようになったという感じですね。

– 東京別視点ガイドを始めた時は、これで食べていくぞ!という強い意志を持っていたのですか?それとも、自分が単純に珍スポットが好き、だった?

 両方ですね。好きなことじゃないと続けられないっていうのと、いっても勝ち目があるものじゃないとな、と思ってたから。食える可能性があると思って始めました。

 - フリーランスのライターとしてひとりでやっていくわけではなく「別視点」という会社にしたのはなぜですか?

 フリーランスでライターをやることって、一人でスキルを突き詰める道じゃないですか?そうやって、職人的にスキルを突き詰めるか、チームを作ってやっていくかを考えたときに、まあどっちもめんどくさいなって。でも、どっちのめんどくさいを選ぶかな、と思った時に、職人的な方向は向いてないと思ったんですね。他のライターさんみたいに、文章力を高めたいみたいな欲求全くないので。要点さえ掴めれば箇条書きでもいいとさえ思ってるくらい。それで、会社にしてみようと考えました。

意味がないこと、なくても誰も困らないことをやり続けること

– 東京別視点ガイドでは色々な珍スポットや珍イベントを紹介していますが、それらの何が好きで活動を続けているのでしょうか?

 それでいうと二つあります。
 ひとつめは、普通とのギャップがあるっていうところですね。大喜利が好きでずっとやってたんですよ、一番長い趣味で10年くらいかな。大喜利にはお題があって解答があります。そのお題のほとんどは、ネガティブ方向の問いを尋ねるんですね。例えば、「こんなコンビニは嫌だ」とか、「こんな宝塚は見たくない」とか。もしこれが「こんなコンビニは最高だ!」みたいなプラス方向だと、コンビニの営業努力じゃないですか?それに対して、大喜利は、「嫌だけど面白い」ところをせめていくわけなんです。今までずっとそれをやってきて、解答は全部ファンタジーですよね。そんなのはないって思ってるから面白い。でも珍スポット巡り始めたら実際あるんですよ!大喜利の回答にあるようなお店が。普通だったらこれやらないだろ、みたいなことをやるお店。
 例えばこれ、パブレスト百万石っていうお店なんですけど。名古屋、犬山にある喫茶店で、店主の人が好きな言葉とか、好きな場所とか、人生の中で起こったこと、愛人の間にできた子供を向こうに取られちゃったんで、その子供の小さい時からの似顔絵とか名前とかを壁中に書きまくってるんですよ。自伝書なんです、建物自体が。 

壁一面に色々な文字が書き連ねられているお店、パブレスト百万石
レタリング技術が高いことにもびっくり

 名古屋ってモーニング文化があるから、コーヒー頼むだけでパンを出してくれたり、おやつを出してくれたりしますけど、この店の場合は、いき過ぎちゃってて、コーヒー頼んだら、ワイン出てきて、ホールのカマンベールチーズ出てきて、サンドイッチ6切れと団子とサラダと、お土産にカツ丼とマカデミアナッツチョコと魚肉ソーセージ3本とかくれて。そんなの400円とかありえないじゃないですか、営業形態として。それこそ本当に大喜利の解答を具現化したような店だなと思って。

 もう一つの珍スポの魅力に、自分の生き方とのすり合わせみたいなことがあります。珍スポット紹介する活動って意味がないんですよ。無くても誰も困らない。こんなことやってて何の意味があるんだろうって時折思ってたんですけど(笑)でも、別視点ガイドで紹介する店主の人たちって、無意味を何十年もやってるんです。悩むにしても早すぎると思いました。勇気をもらえるんですよね、こういう人たちに話を聞くと。どうでもいっか人生ってなっちゃう。

理性的な判断を一歩一歩しながら、何十年も経た時に、気づいたらやばいところにいる

 新橋に加賀屋(かがや)っていう居酒屋がありまして、そこはメニューが全部「店長今日は腹ペコだから、今日は豪勢に食べさせてよコース」とかいう風な台詞になってるんです。その台詞を心込めて読まないと、何回もやり直しさせられて。ドリンクの持ってき方も、国別になってるんです。イギリス、ブラジル、日本、中国とかから選べて。例えば日本を選ぶと、日本舞踊をきっちり五分間踊ってくれてから、ドリンクが運ばれてくる。
 そこの人も30年くらいやってるのかな、親がもともと居酒屋で新卒からずっと。でも会って話してみると、こうしたら面白いよねっていうをきちんと分かってやってるんですよ。お客さんに、「ドリンクの持って行き方にベネズエラを加えたら?」って言われたことがあったらしいんですが、「ベネズエラは、共通のイメージがみんなの中にないからダメ。それでボケようがない」と。
 そういう話を聞くと、まともな判断の中で異常性のあることをやってるってことですよね。それって正気を保ちながらも、一歩一歩狂気の道を歩んでいるっていうことじゃないですか。それで30年歩んで、常人ではいけないような狂気のポジションにいるわけで。自分が目指すとしたらそこじゃないかと思いました。ナチュラルボーンの変人って確かにいますけど、自分はそうではない。理性的な判断を一歩一歩しながら、何十年も経た時に、気づいたらやばいところにいるみたいのだったらありうるかなと思っています。

とにかく続けること

– ウェブサイトから始まって、今はツアー等も企画されていますが、今後会社として目指しているところはありますか?

 とにかく続けようと思っています。あとは海外のロクデモナイお土産を売ったりする雑貨屋で、トークライブもできるような場所を作りたいですね、なるべく早く。三年以内かな。
 自分たちだけでやろうとは思ってないし、いろんな人と一緒に面白いことをやっていきたいですね。

海外行くと、アナ雪のパチモンみたいなのすごい多くて。これアナね。活動的な性格に描かれてはいましたけど、こんな改造のビックスクーターには乗ってませんからね笑
ピカチュウも多くて、台湾かフィリピンですね。寄生虫に取り憑かれたかたつむりって、こういう光り方します。

パンプアップしてる、ミニーちゃん。叩く速度がめちゃ早いんですよ。
フィリピンで、道端にゴザ敷いて売ってたんですけど、一度通り過ぎかけて二度見しちゃって。
こんなの、いくら高くたって買っちゃいますよね、一個100円とかだったけど笑
こちらは「別視点」が企画する秘宝館を巡るバスツアーのフライヤー。
秘宝館の展示物ではなく、館主の人としての面白さにフォーカスするために、あえて、わかりやすい秘宝館のモチーフを使わなかったそう。副代表齋藤さんのデザイン。
日本中、世界中で集めてきた珍グッズが所狭しと並んでいる。

好きなことで起こる嫌なことの方がマシ

– 今の仕事や生き方についてどう思われていますか?

 後悔はないですね。アルバイトとかもしてましたけど、完全に心を殺して、ゾンビ状態で、メカとして働いてたし。バイトで友達ができたこともない。自分の場合、人間的な営みをするとしたらこれしかない。
 でも、なんか、好きなことで生きていくルートを促す時に「それって最高だよね!」って論調多いじゃないですか?好きなことで仕事にすれば嫌なことないし、みたいな。それは絶対に嘘だと思ってます。自分の仕事は「好きなことを仕事にしてる人に話を聞く仕事」ですけど。作用があれば反作用があるのと同じで、好きでやっている仕事でも、嫌なことや、めんどくさい事は絶対にあります。それって、どうやって生きてもあることなんですよ。だったら、好きなことで起こる嫌なことの方がマシだよね、と思って。会社員をしていたとしても、体が病気になったりとか、自分では抗えないものもありますし。仏教的な考え方だと、人生は四苦八苦で、生きるのは辛いことだって言われるじゃないですか。昔はそれがよく分からなかった。なんてネガティブな考え方だろうって。でも、ものすごいその通りですよね。ポジティブに捉えるなら、それだったら、好きなことやった方がまだマシだよな、と考えてます。